マッサージは桃源郷

マッサージは桃源郷への入り口
「力加減大丈夫ですか?」
「……大丈夫です」
優しい声にまどろみながら答える私。
しばらくすると遠くのほうからまた声が聴こえてきた。
「力加減、大丈夫ですか?」
「……ぇす」
すでに意識は遥か遠く彼方へと旅立っていた。
マッサージの快楽は途方も無い。
人は触れ合うために生きているのだと分かる。
そして気持ちの良いものを求める快楽主義者だとも分かる。
私は2年前にマッサージ屋さんに飛び込んでからというものの、マッサージの虜となっていた。
そしてこの気持ち良さを伝えたいということで、彼女にも自分からマッサージをするようになった。
マッサージ師からいつも受けているマッサージを見よう見まねで彼女にすることでこの気持ちよさの6割は伝わっているだろう。
マッサージを受けている時に声を掛けてもらうか、無言でやってもらえるかは選べる。
私は必ず途中で寝てしまうのだが、必ず声を掛けてもらう方を選ぶ。
何故かというとあの「力加減大丈夫ですか?」という優しい声をまどろみの中で聴きたいからだ。
初めのほうは雑談もする。しかし20分もすると、睡魔によって会話も出来なくなる。
そしてその優しい声と、快楽の中、私はいつも桃源郷の世界へと旅立つのだ。
その時は本当に「産まれてきて良かった」と心から思えるほどの幸せで包まれるのだ。

趣味は?
僕はマッサージが大好きで彼女に良くマッサージをしてもらうのだが、いかんせん、これが下手なのだ。
力の無い彼女のマッサージはふにゃふにゃとしているし、肝心なツボの位置も分かっていない。
しかしそれでもやってもらわないよりはやってもらったほうがマシだからしてもらていたのだがやはり満足は出来ない。
僕は貧乏性なので形に残らないサービスにお金を払うのは躊躇していたせいでマッサージ屋に行きたくても行けなかった。
しかし仕事帰りにあまりにもくたくたで体がガチガチだったために、家の帰りに通るマッサージ屋の扉を意を決して叩いてみた。
1時間2800円という文字にゴクリと喉が鳴る。貧乏性の僕にとってはサービスでこれだけのお金を払うのは、なかなかの冒険なのである。
そして30分後。これなら1時間4000円払ってもいいと思うほどに僕は満足をしていた。
さすがプロのマッサージ。いつもやってくれている彼女にはとても悪いことを言ってしまうが、経ったの30分で今までの彼女のやってくれた分の全てを足しても足らないほどの気持ちよさの中に浸っていた。
余りにも気持ち良いために多量のヨダレを垂らして寝てしまったほどだ。
それからというもの、休みの日は必ずマッサージ屋に行くことになった。
趣味は?と聞かれたら「マッサージ」と胸を張って言うだろう。

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